2015年10月29日木曜日

境界性パーソナリティ障害を支えるために⑭ 問題解決のための戦略



(境界性パーソナリティ障害の人を支える人々に必要な、知っておくべき向き合い方の原則を紹介しています。今回紹介するのは「問題解決戦略」です。)

1.本当の原因ときっかけの区別を

アメリカの精神科医で境界性パーソナリティ障害に効果が高い治療法である「弁証的行動療法」を生み出したリネハン博士は、「問題解決戦略」を柱に立てました。これは「認証戦略」と並ぶ重要な柱です。

まずリネハン博士が着目したのは、境界性パーソナリティ障害の人は「本当の問題」と、「きっかけに過ぎない問題」を取り違えているということです。

一例ですが、「彼にメールを送ったのに、一日待っても返事がなかった。だから彼とは終わりであり、もう自殺するしかない」。そう思いこんでパニックになって怒りをぶつけている女性がいるとします。

確かに彼からメールが来ないことが、問題の発端です。彼女はそれが原因だと信じています。でもそれはきっかけに過ぎないのです。

というのも問題には二種類あるからです。一つは、目の前に生じたトラブルであり、不愉快でストレスになる出来事です。こうした問題は、常に発生します。誰もがそれに遭遇しています。でも普通は彼女のようにはなりません。

もう一つは、そうした問題が発生した時に、どう受け止めて、どう対処するかという問題です。本当の問題は、こちらにあります。本当に問題なのは、受け止め方でありそれへの対処の仕方です。

目先のことや、目の前のこまごました相手の対応が問題だとしている限りは、決して本質的な解決はできません。なぜなら本当の問題はもっと別のところ、つまり本人の受け止め方と対処の仕方にこそ、問題の本質があるからです。そこに目を向けて改善しない限りは、決して事態がよくならないのです。

トラブルが起きても、それに対して最適な解決方法を選択して、行うことができるようになれば、トラブルが起きること自体は問題ではないことが分かるようになります。問題は、トラブルに対する受け止め方対処の仕方だからです

境界性パーソナリティ障害の人は、往々にして、トラブルを過度に悲観的に受け止めて、自分が生きる価値のない人間である証拠とみなしてしまいます。こうした自己否定的な認知は、このタイプの人に共通して見られます。


2.悪い反応のパターンを見つける

受け止め方と、処置の仕方に問題があることを理解できれば、次はどういう悪い反応のパターンがあるかを自覚することです。それぞれ特有の癖を持っていますので、それを発見します。本当の問題は、その癖と密接に関係しています
その癖の問題を自覚して、修正できれば、本人はすごく楽になっていきます。

カッとなって暴言を吐く・・・。その怒りは、今までの関係を全部断ち切るほどの強い怒りであることは、境界性パーソナリティ障害を持つ人にはよくあることです。

そこで、この方の周囲の方には、次のような対応をお願いしたいと思います。冷静に平静に受け止め、同じ変わらない態度で接するのですが、その上で問題解決のためのアプローチを取ってほしいのです。

①本人に、どういう状況で、そうした反応を起こしたのかを、つぶさに思いだしてもらいます。たいていは些細なことがきっかけで、激しい怒りが発生していると思います。まず、その事実を確認してもらいます。

②次に、その出来事を、どのように受け取り、どんなふうに感じたのかを、話してもらいます。

③本人がその時話した言葉は、そのまま受け止めます。「・・・と思ったんだね」、という具合にです。

そう本人の感じたことは事実ですから、その事実を受け止めます。

決して、「それは違うよ」「それは誤解だ」と否定したり非難したりはしません。

本人がそう受け取っているという事実を、あくまで尊重し、本人が理解しているようにこちらも理解しようと努めます。「この人はこう感じている」ことは、今そこにある現実であり、その人の今の心にとっての真実であるからです。そう受け止めます。これが「受容」の段階です。

④「そんなふうに受け取ったら、確かにいやだったよね」といった仕方で、共感を伝えます。

⑤その上で、「本当に相手はそういうつもりで言ったのかな?」「ほかの可能性はないのかな?」と冷静な視点で、もう一度振り返ってもらいます。

⑥「どうしてそう受け取ったのかな?」とか「そう感じるのは何が意味があるはずだよね」など、問いかけて考えてもらいます。

⑦「今までも、そんなふうに感じて、反応してしまったことはなかった?」といった質問を投げかけながら、最近の出来事や過去の出来事を振り返っていきます。するとほかにも同じような反応をしていることが見えてきます。繰り返し繰り返し、そうした反応をしているはずです。

⑧これによって、自分が同じパターンで物事を受け止めて反応する癖があることに気づけるようになります。すると、ひょっとしたら今回の出来事も、実は別の解釈ができる可能性があったのではないか、自分の癖でそうとらえたに過ぎなくて、本当は違っている可能性があるのではないかと、別の可能性に目がいきはじめるのです。

この方法を取る際に注意することを、岡田尊司博士は次のように述べています。

気をつけることは、こちらにはパターンが見えていても、本人を飛び越えて決めつけるような態度をとらないことである。本人が自然に、自分の偏りに気づけるように、さりげなく言葉や事実をなぞったり、新しい視点のヒントを投げかけながら本人の主体性を尊重したサポートを心がける。無理強いしないでも、いずれ同じような反応パターンを繰り返していることに気づいていく。自分が過剰反応しやすい状況がどういうものであるか、自動的に湧き起こって自分をとらえてしまう思考パターンが、どういうものかを自覚し始める。

こうした取り組みは、自分の思考と感情を客観的に観察するという習慣をつけます。

爆発して荒れ狂う思考や感情に振り回されていた人が、自分の思考と感情に注意を向けて、それを観察しはじめると、次第に冷静に自分を見つめることができるようになります。

湧き起って暴れている思考や感情と、それを観察している自分というふうに、自分を二つに分けることができるようになるからです。

それだけでも、相当冷静になることができ、耐えがたい激しい感情や思考を穏やかなものにできます。

さて、問題となる一定の反応パターンのことを、専門用語では「認知の歪み」と呼んでいます。「歪み」というのは、その認知の特徴が本人や周りを害しやすい傾向があるためです。しかし私のブログでは「認知の特徴」という表現をしたいと思います。歪みかどうかは相対的な見方に過ぎないからです。次回にそれを見てゆくことにします。

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(参考図書)

『境界性パーソナリティ障害』岡田尊司著 幻冬舎新書

2015年10月26日月曜日

境界性パーソナリティ障害を支えるために⑬ 言葉で栄養を与える



(境界性パーソナリティ障害の人を支える人々に必要な、知っておくべき向き合い方の原則を紹介しています。今回紹介するのは言葉の使い方です。)

1.言葉で心の栄養を与える

境界性パーソナリティ障害の人を支えるうえで言葉は大変重要です。苦しんでいるご本人は、見捨てられ不安を抱え、愛情飢餓感を持っておられますので、言葉で心に栄養を与えることには、とても大きな意味があります。

①いつも寄り添っていることを伝える言葉

境界性パーソナリティ障害の人は、少しの失敗でも希望を失ったり、極端に落ち込んで弱くなったりします。励ます思い、安心させる思いを、シンプルに伝えることで、心にカンフル剤を与えることができます。

その際に必ずしも理屈はいりません。安心を取り戻させるためには、シンプルな包み込むような言葉を使えばよいのです。励ましたいという気持ちが大事です。それがあればきっと的確な言葉を、信念をこめて伝えることができます。

「大丈夫だよ」
「心配はいらない」
「きっとうまくいくよ」

まずこういう言葉で大きく包み込みます。そして安心を与えます。言った家族も、この言葉で力を得ます。

境界性パーソナリティ障害の人は、孤立無援感をもつと、思いつめて自己破壊的な行動へと駆り立てられがちです。ですから・・・、
「いつもあなたに寄り添っているよ」
という思いをこめて、シンプルな温かい言葉をつかいます。

苦しい時には助けを求めたらいいんだよ。決して一人じゃないよ
という思いを、言葉にしっかりと込めましょう。

「一人だけで悩まなくていいんだよ」
「一緒に考えていこうね」
「いつも見守っているよ」

いつも寄り添っていることを、何度でも伝えてください。
もし実際には物理的にいつもそばにいられなくても、気持ちは常に寄り添えますから。

②逆転の発想を盛り込んだ言葉

失敗や挫折に強くなるコツは、目の前の失敗やその結果起きることへの不安から視線をあげて、未来の可能性へと目を向けることです。
境界性パーソナリティ障害の人には、その訓練が特に必要です。

過去のことはいくら悩んでも変えられないけれど、未来はこれからの努力で変えていけることを伝えます。今までの人生を嘆くより、これからいい人生をつくっていこうと呼びかけます。

それは支援している側であるあなたの心にも呼び掛けてください。
しだいにその言葉どおりになります。言葉には実現する力があるからです。

「本当の人生は、これからだと思うよ」
「今まで苦しんだ分、これから取り戻そうね」
「過去は変えられないけど、未来は変えていけるよ」

これを語るあなたが、もし苦しんでいたら、深い共感をもって語ることができるはずです。
自分にも言い聞かせるように語る言葉には、魂がこもります。

さらに、逆境を跳ね返す見方を言葉で伝えます。
最悪と見える状態も、必ずいい面があります。
陰極まれば陽転する」というのは中国の易経の言葉ですが、悪いことがとことん極まると、必ず良い方向へと反転するという人生の真実を簡潔に教えています。
「陰極まれば陽転する。」
これは確かに人生の真実です。

夜が最も暗くなった時、夜明けが近づいています
朝日はそこまで来ています。
それを信じたら、頑張れます。
そうしたら必ず「朝日」を見ることができます。

最悪の状態にも必ず良い点があるという逆転の発想を、言葉に盛り込みます。

「これ以上悪くなることはないよ。底を打てば、必ずリバウンドするからね」
「これから、かならずよくなっていく」
「ピンチはチャンスに変えられるよ」
「苦しんだ分だけ優しくなれるから」
「苦しみを耐えた分だけ強くなるよ」
「強くなるための試練を与えてもらったと思おうよ」

これを自分にも断言するのです
そして、あなたの言葉で確信をもって本人にも伝えましょう。

③優れた面に光を当てる言葉

境界性パーソナリティ障害の人は自信を失っています。
自分の欠点や悪いところばかりを見て、長所や優れた点がまったく目に入らないからです。
だから、すっかり打ちのめされています。

これは、「自分の短所ばかり拡大鏡でみて、自分の長所が見えない」という心理的な囚われのせいです。このネガティブな囚われを中和する必要があります。
それには、周囲が言葉で本人の優れた点を伝える必要があります。

でも、本人が言う自己否定的な発言を、頭から否定する言葉はつかわないでください。
それでは自分が受容されないと感じます。
まず本人が言う不満や自己卑下を聴いても、「あなたはそう思っているのね」といったん受け止めます。
その上でさりげなく言いましょう。

「でも、あなたの~のところは、なかなかのものだと思うけど」
「でも、あなたの~なところを、○○さんはすごくほめていたよ」
「あなたはずいぶん謙虚ね。そういうところがいいわね」
「あなたには素晴らしいところがあると思うよ」

本人が語る自分の不完全さへの嘆きや自己否定を、そう本人が思っている気持ちを受け止めながら、それをもっと大きな肯定や賞賛で包み込むように返すことを、何度も何度も繰り返してあげてください。それによって自己否定の傷口は少しずつふさがれていきます。

そういう丹念な繰り返しができる家族や友人などの支援者は、本人を支えて癒すかけがえのない存在です。
もし過去にそういう対応を取れなかったとしても、今それを行うことで本人は癒されていきます。

「あなたは、どうしてなかなか見所があるわね」
「あなたは知れば知るほど味のある人だね」
「君の欠点だったところが、魅力に変わってきている気がするよ」

こういう言葉は、本人の変化や成長を意識させる言葉であり、本人が自分の成長を確認でき、自己回復のきっかけになります。

④本人の可能性を信じて伝える言葉

境界性パーソナリティ障害の人は失敗して傷つくことを恐れています
自分の能力を低く見ているので、成功することよりも失敗の原因となることばかりが頭から離れません。
失敗してプライドが傷つくのを恐れるあまり、挑戦することから逃げたり、他の問題を起こして周囲を煙にまこうとします

しかし、本音を言うと、とても頑張り屋で、自分を人に認めてもらいたいという欲求は人一倍強く持っています。その気持ちの背中を押してあげる言葉を投げかけてあげてください。

「あなたは、やれる」
「あなたなら、きっと成し遂げられる」
「あなたなら、きっと最後にはうまくいく」
「あなたは困難を克服する力を持っている」

「どこにそんな根拠があるんだ」と反論されても、

「私はそう信じている」

と返します。いちいちその理由を説明する必要はありません。

本人が必要なのは、本人の力を信じてくれる存在なのです。本人の力を信じる言葉です。希望を捨てない心です。

あなたは本人を誰よりも信じて、希望をもって見守ることができます。
なぜならあなたは本人を誰よりも愛しているからです。


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(参考図書)

『境界性パーソナリティ障害』岡田尊司著 幻冬舎新書

2015年10月23日金曜日

境界性パーソナリティ障害を支えるために⑫ 認証という戦略



(境界性パーソナリティ障害の人を支える人々に必要な、知っておくべき向き合い方の原則を紹介しています。今回紹介するのはアメリカのリネハン女史が開発した境界性パーソナリティ障害の人を支える基本的な方法の一つです。「認証戦略」と呼ばれています。やや専門的な支援の方法かもしれませんが、非常に重要なことを教えてくれています。)

1.ピンチをチャンスに変える受け止め方

境界性パーソナリティ障害を治療する方法として国際的に評価が確立している治療法に、「弁証法的行動療法」があります。これはアメリカのリネハン博士が開発したものですが、自殺防止の方法としても有名で、優れた成果を上げています。

リネハン博士は、自分がカウンセリングしている姿を第三者の専門家に見てもらい、どういう関わり方が効果があるのか、どういうコミュニケーションが治療的かを、実証的に根気強く研究しました。その結果、「認証」という関わり方こそ、改善への鍵を握っていることに気が付きました。

認証」というのは、「ピンチをチャンスに変える受け止め方」です。言い換えると、「どんな悪いことや困ったことにも、必ずよい面や学ぶ点があるという発想で物事を受け止める態度」です。それを「認証戦略」と呼びます。

この世界に本当に悪いことはありません。私たちを真に害するものはないと思います。一見悪いと見えることも必ずメリットがあり、意味があるからです。その意味を見出した時に、それは成長への糧となります。それがあったおかげで、いっそう成長できたという感謝へとつながります。

その考え方を持っていると、ピンチは成長への機会と受け取ることができるようになります。成功へのばねになるのです。こういう考え方は、成功している人や困難を克服してきた人が、自然に身につけていることが多いように思います。

2.二分法的な認知を修正する

境界性パーソナリティ障害の人は、ほとんどが二分法的な認知をしています。認知というのは、物事の受け止め方ということですが、それが「善いことか悪いことか」「完璧か失敗か」「敵か味方か」と完全にどちらかに色分けし二分して受け止めてしまうのです。要するに黒か白かしかなく、灰色という中間がないのです。

この「二分法的な認知」をすると、些細な悪い点があっただけで、すべて台無しになったような気がします。ダメな点や不満な点にばかり目がいって、自分自身や周りの人や、学業の成績や仕事の出来栄えなどを裁きます。つまり人や成果や出来事に「不認証」を与えるのです。これは自分も苦しいだけでなく、周囲の人も苦しめます。

この二分法的な認知をする人は、うつ病にもかかりやすいことが知られています。実際、境界性パーソナリティ障害の人はうつ病になりやすく、自殺率も高いのです。

なぜ二分法的な認知をするのかというと、育った環境の影響を見逃せません。周囲の人が決して奥井はなくとも、何かトラブルが起きた時に、本人に「認証」を与えるよりも、「不認証」を与えてしまっていたのです。

トラブルが起きると、冷静に対応してそれを乗り越えるのではなくて、トラブルは悪いこと、それを起こしたお前は悪い人間で、罰を受けなければならない、お前はダメなやつだと、いわば裁かれて生きてきたように感じているのです。それで「二分法的な認知」と「自己否定」を心に刻み込んで成長してしまったのです。

こうして身につけた「二分法的な認知」を変えるには、周囲が、それとは逆の接し方を、繰り返しすることが必要になります。つまり境界性パーソナリティ障害から回復させるには、次のような一貫した「認証」の姿勢が必要なのです。

どんな悪いことにもプラスの意味があり、それは必要かつ必然性を持った行為であって、そこから何かを学んでいけるのだ、成長するきっかけにすることができるのだ」ということを、頭で理解すると同時に、「心の底から実感し、身につけていく」ことが必要なのです。

3.言葉が重要である

境界性パーソナリティ障害の人はよく全否定したり、悪い点に過剰に反応する受け止め方をしますので、これを周囲の人がさりげなく修正してあげてください。全否定したことの中にもプラスの面があることに気がつくように、さりげなく修正する言葉を使うのです。そうした言葉が重要です。

「こんな最悪の時でも、~という良い面もあるんじゃないかな」
「こんな時に、よくそんなふうに考えられたね」
「それを体験したことは、きっと意味があるはずだよ」
「それがわかっただけでも、すごいじゃないか」
「転んでもただでは起きないということだね」
「良く耐えてきたよね、それだけでもすごいよね」

周囲の人は、本人も気づいていないような良い面やプラスの意味を見つけだす名人になり、良き側面に積極的に反応する必要があります。そして言葉で表現することを習慣にするのです。それは周囲の人自身が自分が持っている「二分法的な認知」を修正することにもつながります。

境界性パーソナリティ障害の人が育った環境では、通常は「認証」とは逆の対応がなされています。つい悪い点やダメな点を発見する名人になってしまっており、悪い点に過剰に反応しがちなのです。せっかく良い芽が出てきても、それに目が向かずに、「ちっとも変っていないな」「進歩しないな」と、一言で切り捨ててしまうことが多く、本人を心理的に追い詰めがちです。せっかく芽吹いた新芽に、霜をかけるようなものです。しかもそれを悪いことと知らずに行うので、いつまでも変わらないのです。

「認証」という戦略を、人生の基本姿勢として持つ努力を、是非してください。すると苦しみを乗り越える過程で、家庭が明るく育むものへと変容してゆくと思います。

なお、母親が子育ての責任を一身に負って責められがちですが、母親が愛情深く余裕をもって子育てできるには、夫の支援が欠かせません。夫が妻を物理的にも精神的にねぎらい、妻が安心して子育てができる環境を作らなければ、とても母親一人で子育てはできません。子供に問題がいきたときは、夫婦はお互いに責任があることを理解して、二人が協力して対応することが何よりも大切であると思います。そうすることで、子どもが問題を発症したことをきっかけに、夫婦のきずなが深まります。こういう考え方が認証戦略なのです。


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(参考書)

この項は特に『境界性パーソナリティ障害』岡田尊司著(幻冬舎新書)の恩恵を受けています。こうした「認証」に通じる物事のプラス面を見る思想は「光明思想」でも説かれており、エマソンや谷口雅春氏が有名です。光明思想ではありませんが、心理学のユングや河合隼雄氏の思想は、この認証の側面を濃厚に持っています。現象として現れた悪を単なる悪と見ない、そこに別の意味を見出すのは、河合隼雄氏の著作に一貫している姿勢だと思います。

境界性パーソナリティ障害を支えるために⑪ 支持・共感・真実


(境界性パーソナリティ障害の人を支える人々に必要な、知っておくべき向き合い方の原則を紹介します。今回は基本的なコミュニケーションの方法である「支持・共感・真実」です。)

1.コミュニケーションの3つの基本

これから紹介するのは、危機的な状況にある境界性パーソナリティ障害の人を支援するためにアメリカの医療機関で開発されたコミュニケーションの方法です。それは3つの基本からなっている体系で、支持(サポート)、共感(エンパシー)、真実(トルース)で構成されています。この頭文字をとって「SET」と言われます。

支持(サポート)」は、支援する人が、自分から力になりたいと思っていることを伝えることです。本人を気遣っているという支援者の個人的な気持ちを表現します。

共感(エンパシー)」とは、本人の混乱している気持ちをありのままに受け入れて理解しようとする姿勢です。かわいそうという同情ではありません。相手の気持ちをありのままに理解しようという姿勢です。

真実(トルース)」は、最終的な責任は本人しか取れないのであり、どんなに支援する側が力になろうという気持ちがあっても、他人が肩代わりして本人の人生を生きることはできないということを伝えることです。

この「真実」では「今そこにある問題を認識して、その解決に向けて具体的に何がなされるべきかを述べる」ことが中心になります。

「真実」には、支援する側が本人によって強いられている状況を、決して批判がましくない表現で、客観的に伝えることが必要です。そして本人が置かれている状況を、非難する気持ちを悲観的な思いをもたずに、冷静に客観的に伝えます。そして、その時に欠かせないのは、「それで、あなたはどうしたいの?」「どうしようと思うのかな?」という本人の主体性を重んじる問いかけです。

2.3つの要素が含まれる会話が必要

境界性パーソナリティ障害の人とのコミュニケーションには、この3つの要素が全部含まれていることが必要です。どれかが欠けていると、問題が起きます。逆にいうと、本人とのコミュニケーションがうまくいかない時は、3つの要素の何が欠けていたのかを点検すると、コミュニケーションの改善の方針が見えるのです。

「支持」の要素が十分に伝わっていない時は、「私のことを心配していない」、あるいは「私との関わり合いを避けている」と言って非難してきます。
本人が「私のことなんかどうでもいいのね!」と相手を責めるときは、「支持」(サポート)の気持ちが十分に伝わっていないことを教えています。


共感」を伝えることができていない場合は、「あなたには私の気持ちは分からない」という反応が返ってきます。この時、「自分の苦しみが理解されていない」という気持ちを本人は感じているのです。
この時には、分かってもらえないことをコミュニケーションの拒絶の理由として突き付けてきます。自分の苦しみが理解できない人間などとは、まともに取り合う必要がないと見なすのです。

「真実」の部分が明確に伝わらない時は、危険な状況が生まれてきます。
境界性パーソナリティ障害の人は、相手の容認や受容を自分にとって最も都合の良い方向に解釈をするという傾向を持っています。
具体的には、それは「自分にかかる責任を相手が引き受けてくれる証」であるとか、そうでない時は、「自分の考え方、感じ方が全面的に受け入れられて支持されている」という理解のしかたをします。
境界性パーソナリティ障害の人は自分と人の境界がなく相手と融合してしまおうというコミュニケーションをとります。そのために親しくなるほど非現実的で一方的な要求をするようになり、その要求の重さに耐えられなくなると、関係が破たんしていきます。
だからこそ、「まっすぐに向き合う」姿勢をもって、「真実」を伝えていかないと、本人は、相手にしがみつこうとする態度をいつまでもとり続けてしまいます。

この「真実」は最終的には、本人に、自分に起こる出来事や反応は、自分がしたことに基づいているということを理解してもらうために必要です。それがなくて、いつまでも相手を責めるばかりで、責任が自分にあることが理解できないと、決して心が成長し、豊かな人間関係を築くことができなくなってしまいます。

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(参考図書)

『境界性人格障害のすべて』ジェロルド・J・クライスマン&ハル・ストラウス著 VOICE

2015年10月21日水曜日

境界性パーソナリティ障害を支えるために⑩ 安心感を与える



(このシリーズでは、境界性パーソナリティ障害の人を支える人々に必要な、知っておくべき向き合い方の原則を紹介しています。今回は基本的な「安心感を与える対話」です。)

安心感を与える対話

境界性パーソナリティ障害の人は「見捨てられ不安」と「愛情飢餓」を抱えています。ですから自分が失敗したり挫折したりすると、見捨てられるのはないか、愛されないのではないかという不安におそわれるのです。

本人に必要なのは、決して見捨てられないという安心感です。そして、どんな自分であっても愛されるという信頼感です。この基本的な安心感・信頼感ができてくると、症状は改善していきます。

その為には、「悪いことを話しても受け止めてもらえる」という安心感・信頼感を持ってもらえるように対応することが必要です。これが回復の鍵を握っています。

具体的にはどうすればいいでしょか。まず必要なのは、本人が自己コントロール等に失敗し症状がぶり返した時に、周囲が失望や焦りといったネガティブな感情にとらわれないようにする必要があります。ここで周囲が自分たちの期待を押し付けて、それができないと失望するというパターンで反応すると、本人はいつまでたっても回復できません。

むしろそういう時にこそ、

「苦しい自分を見せても、冷静に受け止めてもらえる」

「失敗しても、分かってもらえる」

「悪い状態の自分を見せても、裁かれないで受け止めてもらえる」

という安心感を持ってもらうチャンスだと受け止めるのです。

失敗しても冷静に受け止めることができ、なぜうまくいかなかったのかを理解して、再び三度と挑戦することができるようになると、人間として成長してゆきます。

本人がありのままの自分を見せることができて、本当の気持ちを話しても、それを受け入れてもらえ、さらに理解してもらえるという体験を積み重ねることが、回復の鍵を握っているのです。

ここで培われる基本的信頼感・安心感こそが心の基盤をつくり、情緒を安定させる基底になるからです。

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(参考図書)

『境界性パーソナリティ障害』岡田尊司著 幻冬舎新書

2015年10月19日月曜日

境界性パーソナリティ障害を支えるために⑨ 自殺企図への対処



(境界性パーソナリティ障害の人を支える人々に必要な、知っておくべき向き合い方の原則を紹介します。今回ご紹介するのは深刻な問題である「自殺企図への対処の仕方」です。)

1.自殺企図への対処の仕方①

境界性パーソナリティ障害は自殺したいという気持ち(自殺企図)に苦しみ、自傷行為も頻発しがちなので、支援する側が精神的にダメージを受けやすい障害です。

この自殺企図に対しては二つの面からの対応が有効だと言われています。

一つ目の方針は、限度を超えた行動が見られて、現に自殺の危険性を感じたときは、大目に見ずに、医療機関に入院するという措置を取ることを決めておくことです。そして実際にそうなった時に、すぐに入院手続きを取ります。こうした行動制限があった方が、本人もコントロールしやすいのです。

入院すると家族から離れて自分を見つめる時間が取れます。周りのせいにしていた問題を、自分の責任として受け入れるきっかけにもなります。ですから、入院は決して悪い選択ではありません。
入院によって自分の生活や周囲の環境を新しい目で見なおし、気持ちを立て直すことも少なくありません。

ただし、家族の面会は必要です。家族と面会を重ねながら、同時に一人で見つめなおす時間もあることで、家族との関係を見直せるチャンスになります。

ただし、友人たちの面会は、時にはもっと落ち込むきっかけになることがあります。昔の自分や友人の現在と比較して、今の自分のみじめさに、うつ状態が深まることがあるからです。ですので、家族はしっかりと注意して見守ってあげてください。

2.自殺企図への対処の仕方②

もう一つの方針は、本人の「行動の奥にある思いを汲む」ことです。

自殺企図以外にも、自傷行為、薬物の乱用、万引き、性的逸脱などの「行動化」と言われる逸脱行為は、この障害に特徴的です。もちろん、本人にとって極めて危険です。

しかし、そうした行為は、本人の「自分を分かってほしい、自分に向き合ってほしい」という「必死のアピール」である側面を持っています。

ですから、問題に蓋(ふた)をして、いたずらに本人の機嫌を取ろうとするのではなく、まして見放すのではなく、たとえ苦しくても本人がこだわっている問題に一緒に向き合う姿勢をとってあげてほしいのです。

そうまでして訴えざるを得ない苦しみを持っているということを受け入れ、その苦しい気持ちを理解し、一緒に向き合っていこうとするときに、心のつながりが深まります。

3.間違った対応への注意

この両面からの対策は、後者の「行動の奥にある思いを汲む」は受容的な対応ですが、前者の冷静な「行動制限」は本人を守るために必要な対処だけをするシンプルな対応です。特に状態が悪い時は、このシンプルな対応が大切です。行動が制限できて、初めて受容的な対応ができるのです。

例えば、自傷行為をした時に、周囲がおろおろして心配でたまらないという態度を示したり、何とかやめさせようと懇願して大騒ぎをしたりすると、かえってよくありません。なぜなら、こういう行動をすると、周囲が自分を大切にしかまってもらえると、間違った「学習」をしてしまうからです。

こういう時は、思いやりはあるが、冷静で穏やかな態度を維持することで、そうした間違った受け止め方(学習)をさせないことが必要です。

もう一つ避けるべきなのは、理屈で説得しようとすることです。境界性パーソナリティ障害の人は、極端な結論に走って自分の行動を正当化しがちですし、非常に議論が得意でもあります。ですから、議論は逆効果です。

それよりも、十分に本人の言い分を聞いたうえで、「自殺の危険性があるのにあなたを一人で自宅に置いておけないでしょう」と言って、きっぱりと入院などの対処したほうがいいのです。まず危険性を減らして、本人が冷静になってから、その上で受容的な傾聴をすることが、効果的な対処といえるでしょう。

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(参考図書)

『境界性パーソナリティ障害』岡田尊司著 幻冬舎新書

2015年10月17日土曜日

境界性パーソナリティ障害を支えるために⑧ 本音を汲み取る



(境界性パーソナリティ障害の人を支える人々に必要な、知っておくべき向き合い方の原則を紹介します。今回ご紹介するのは親子の関係を改善するうえで最も重要な「言葉の奥にある本音を汲み取る」です。)

1.言葉の奥にある本音を汲み取る

境界性パーソナリティ障害の人の両親は、往々にして共感能力が不足していることがあります。つまり、子どもの言葉の奥にある本音を感じ取ることが苦手なのです。

例えば、子どもが母親に対して、

「お前なんかに、近寄ってほしくない!」
「顔も見たくない!」

と言った時、
罵声を浴びせられた母親は、子どもに関わることに自信を無くしてしまい、

「あの子が近寄ってほしくないと言ったから、自分にしてやれることはない」

と嘆いて、関わりから手を引いてしまうことがあります。

子供は言葉とは裏腹に、本当は母親に関わってほしいのです。
ところが自分の本音を汲み取ってもらえないことで、子供はさらに怒りを膨れ上がらせます。

一方母親はというと、さらに自信を無くし、子どもへのネガティブな感情を強め、子どもとの関わりから遠ざかります。

その結果、子どもの心には見捨てられ不安と愛情飢餓が、ますます強化されてしまいます。
全くの悪循環です。

気持ちを汲むことが苦手な人は、言葉を額面通りにしか受け取らない傾向があります。そして額面の言葉に傷ついていき、子どもの本音の期待に気がつきません。わが子がどんな思いで親に認めてもらおうと頑張っているか、それが結局、期待外れな結果に終わったことで傷ついているか、感じ取るのが難しいのです。

2.自分の感情に視線が向かう

親が子供の本音の感情に気がつけないとき、その理由は、「自分の感情の方に視線が向く」からです。医学博士の岡田尊司氏は、次のように指摘しています。

本人の痛みに目を向けているように見えるときも、実際は、それ以上に、自分自身の痛みや失意の方に囚われていることが多い。痛々しい姿を見せられておろおろするのも、自分自身の心の痛みに耐えられないからである。苦しんでいるわが子の痛みよりも、そうした姿を見せられることによって、自分が苦しめられ、心を痛めつけられることの方が耐えがたく感じるのである。心のどこかで、親を苦しめるわが子に、落胆と非難がましい気持ちを抱き、困りもの扱いしている。」

渦中にいる方には厳しい指摘だと思いますが、ありのままに事実を事実として受け止め、受け入れることで、意外に改善の方向へ動きだすものです。「たしかのそういう思いがあるな」と認めると、その思いが縮小して無害化していくのです。

さて、親のもつこうした本音の感情を、子どもは敏感に感じ取っています。
本音では子供は親に助けてほしいと思っているし、親も本心では子供を助けたい。
でも、心の本音を感じ取ることが難しくて、お互いが傷つき、その結果、心が離れていくのです。

どうすればいいのでしょうか。わが子の気持ちを汲み取るということに、視線を向けることしかありません。先ず必要なことを、岡田尊司氏は次のようにアドバイスしています。

本人が口先で、どういう言葉を使おうと、それに囚われることなく、心の目を、その奥底にある気持ちに向けるのである。こちらの都合や期待や気持ちではなく、本人の傷ついた気持ちを受け止めようとするのである。」

人の心は、素直に心を開いて、相手の気持ちを感じ取ろうとすれば、ある程度まで感じ取ることはできます。これは訓練の効果があります。

ただし、現実問題として、今までできなかった人は、急にしようとしてもどうしてよいかわかりません。その為に、心理療法ではいくつかの手法が開発されています。それは学んで習得することができる心の技術です。

なお、子供が境界性パーソナリティ障害を持っている場合、往々にして親も幼少期に情緒的もしくは肉体的な虐待を受けて育っており、心に深い傷を負っていることが少なくありません。

この場合は、どのように子供に愛情を注ぎ、心を満たせばいいのかが分からなかったり、無意識に子どもを拒絶していることもあります。

そういう場合は、まず親自身が癒される必要があります。そういう方は是非カウンセリングの機会を持って頂きたいと思います。

<ご案内>
種村トランスパーソナル研究所ではカウンセリングを行っています。
対面のカウンセリング以外にも、電話カウンセリングやメールでのカウンセリングも受け付けています。遠慮なくご利用ください。ご連絡をお待ちしています。
電話09080518198
メールアドレスtanemura1956@gmail.com
カウンセリングルームは千葉県のJR常磐線・我孫子駅南口から徒歩10分の場所にございます。


(参考図書)

『境界性パーソナリティ障害』岡田尊司著 幻冬舎新書