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人格障害③…幼い自我と躁的防衛



1.幼い自我への退行と回復

 
 私たちは子どもの頃から、困難な事態に遭遇した時に、次のどちらかの態度をとります。

a)失敗したり叱られて、ふさぎ込み、自分の無力や非を認めて、落ち込む。

b)思い通りにならないとき、それを周囲のせいにして、欲望を満たしてくれない周囲を悪者にして、その悪者に対して敵対したり攻撃したりする。

 
 前者(a)は自己責任を認めますが、後者は全部他人が悪いとして絶罰的になります。これは、自我がまだ未熟な状態です。

 子どもが後者(b)の状態のときは、いつもの優しい母親のイメージが消え、目の前の「悪い母親」しか目に入らず、「死でしまえ」「だいっ嫌い」と本気で悪態をつきます。この子にとっては、欲求を満たしてくれるときは「よい母親」で、そうでない時は「悪い母親」であり、母親像が分裂しています。これは通常は授乳期に似られる状態で、未熟な状態です。

それが通常であれば、抑うつ的な段階を経て、次第に自我が成長していきます。

 
 見かけは大人であっても、自我が未熟な状態にとどまっていると、後者(b)が出てきやすくなります。そのために人格障害では、しばしばこの幼い自我の状態に退行します。そして、思い通りにならない相手を悪い人だと決めつけて、不利な状況を、自分ではなく相手や周囲のせいにしてしまうのです。
 

 「自己愛」が傷ついた状態(人格障害)の人は、相手が悪いと思うと、その相手の悪い側面を、まるでその人の全てであるかのように見て否定します。その人には、とても親切な良い側面があることを忘れてしまうのです。そして、一方的に相手を責めて、自分を振り返ろうとしません。これはとても未熟な心理状態です。

 これが成熟してくる過程では、人は自分の責任を自覚します。その為に一度は抑うつ的(a)になります。そして悲哀や罪悪感を味わいます。これを「悲嘆の過程」といいます。

 人格障害の人が回復にむかうときは、この「悲嘆の過程」を通過します。そして自分の嫌な側面や行い、自分に降りかかった哀しい出来事に向き合い、その事実を受け入れます。これは自分に向き合い、失われたものに対する「喪の作業」をするのです。

 こういう過程を経て心が成長すると、相手をよい面と悪い面の両方がある存在としてあるがままに受け止め、「全体としての相手」とつながりを回復することができます。これが成熟した姿です。
 

2.弱い自我の防衛である「躁的防衛」
 

 人のせいにして周りを攻撃していた状態から、自分が悪いことに気がついて落ち込む抑うつの状態になるのは、とてもつらいことです。そのつらさに耐えるだけの力が自我にない場合、しばしば自分を守るために、ある手段を講じます。それが「躁的防衛」と呼ばれるものです。

 躁的防衛は、一言でいうと、「幼く、非現実的な万能感を抱くことで、自らの無力さ、後悔に打ちひしがれることから、自分を守ろうとする」心の働きです。

 躁的防衛は、支配感、征服感、軽蔑という、3つの感情に特徴づけられると言われています。この躁的防衛で現実を否認したり、回避する場合、現実と向き合えなくなり、妄想の世界に浸り、その結果、健全な心の成長を妨げます。
 

 心が成長するためには、自分の問題点や厳しい現実を向き合うこと(対決)が不可欠です。抑うつ状態とは、失われたり、しくじった悲しみに向かい合っている状態です。その時に失敗を素直に受け止めて、そこから学ぶことを通して人は成長し、抑うつ状態から抜け出します。

 ところが、ここで躁的防衛をしてしまい、抑うつを避け、失敗の悲しみに向かい合うことを避けると、こうした成長がおこらなくなります。
 

 その結果、人格障害の人は、同じ失敗を繰り返します。それでも気がつかないのは、躁的防衛になったり、悪いのは相手で自分意は責任はないと考える未熟な自我状態(b)に退行することで、自分の問題に向き合うことを避け続けるからです。

 自分の問題に向き合うことをしない限り、人は成長できません。心が成長し、人格が成熟するには、現実をありのままに見つめ、逃げずに向き合うことが、絶対に必要であるということを知っていただきたいと思います。

人格障害④適応戦略の視点から
 http://tanemura2013.blogspot.jp/2014/06/blog-post_29.html

<連絡先>
種村トランスパーソナル研究所
心理カウンセラー:種村修
090-8051-8198
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そのために境界性パーソナリティ障害では、本人の苦しみが激しいだけでなく、家族やその周囲の人が振り回されてへとへとになっていくことが少なくありません。


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こうして家族はその人に支配されているような状態に陥り、息苦しさを感じます。もちろん、ご本人にはそうした意図はありません。ご本人はどうしようもない感情・気分のブレに苦しんでいるのですが、結果的には周囲を支配しているのと変わらない状況が生まれがちです。

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